| 裁判要旨 |
原判決が被告人の殺意の點を被告人に對する司法警察官の訊問調書中同人の自分がAに斬付けたときは、死ぬなら死んでもよいと思つた、犯行後急いで駐在所に行つたが其のとき傷が大きいから死んでしまつたかと思つた旨の供述記載によつて認めていることは所論の通りである。しかし法律が何人も自己に不利益な唯一證據が本人の自白である場合には有罪とされ又刑罰を科せられないと規定したのは犯罪構成要件の一つ一つが獨立して補強されなければならない趣旨でないことは當裁判所の判例とするところである。既ち本件においていえば殺意に關する被告人の自白だけで、他に罪体に關する證明とか、その他殺人罪の構成要件に關し何等の證明がないにも拘ちず、被告人を右自白だけで殺人罪に問擬したり又は處罰したりすることができない趣旨である。然るに本件では、傷害の部位程度及び死因の點は醫師B作にかかる鑑定書と題する書面と押収にかかる手斧の存在とによって認定されているのである。この證據は罪体に關する證明であつて、原判決はこの證據と被告人の原審公廷における供述と共に前記殺意に關する自白と綜合して被告人を殺人罪を以て處斷したものと解すべきである。原判決舉示の證據により判示事實を認めるに難くないのである。されば原判決は刑訴應急措置法第一〇條第三項(憲法第三八條第三項)に違背した點はなく論旨は採用できない。 |