| 裁判要旨 |
被告人がAと互に得物をかざして相對峠し一進一退の状況にあつたという一瞬時だけを切り離して觀察すれば、被害者Bが被告人に飛び掛つて來たことは或は所論のように被告人にとつて「急迫不正の侵害」とも見え、又被告人が右Bの下腸部を突刺したことも「自己ノ權利ヲ防衞スル爲メ己ム事ヲ得ザルニ出デタル行爲」と見ら得る觀がないでもない。しかし、原審の認定したように被告人がテキ屋數名を相手として賣られた喧嘩を買うつもりで肉切包丁を携えてはじめた鬪争が進展していつた一段階として見るならば、鬪争中における形勢の幾變轉は通常必然のことであつて、被告人がAと相對峠していたとき同人を救わんとしてテキ屋の一人であるBが被告人に飛び掛つて來るようなことは數名を相手として喧嘩をする被告人の當然豫期したところでもあり、かかる危險には被告人が進んで身をさらしたものに外ならない。しかのみならず、BはAを救わんとしたもので被告人に攻撃を加えんとしたものではなく、しかも素手で飛び掛つて來たに過ぎないのである。さればこれを目して被告人に對する「急迫不正の侵害」とはいい得ないのである。又被告人がBを刺したのは、既にAの頭部に斬り付け更に追跡後引續き行つた行爲であるから、喧嘩相手の一人に對して加えた鬪争上の反撃に過ぎないものと見うるのであつてこれを目して「自己ノ權利ヲ防衞スル爲メ己ムヲ得ザルニ出デタル行爲」と斷ずることはできないのである。 |