| 裁判要旨 |
原判決の確定した事實によると被告人は被害者の左眼の部分を右足で蹴付けたのである。そして原審が證據として採用した鑑定人の鑑定書中死亡登龍の屍体の外傷として左側上下眼瞼は直經約五糎の部分が腫傷し暗紫色を呈し左眼の瞳孔の左方角膜に直經〇、五糎の鮮紅色の溢血があると記載されているから、その左眼の傷が被告人の足蹴によつたものであることは明かである。ところで被告人の暴行もその興えた傷創もそのものだけでは致命的なものではないが(醫師は傷は一〇日位で癒るものだと述べている)被害者は豫て脳梅毒にかかつて居り脳に高度の病的變化があつたので顔面に激しい外傷を受けたため脳の組織を一定度崩壊せしめその結果死亡するに至つたものであることは原判決舉示の鑑定書の記載から十分に認められるのである。而して右鑑定により被告人の行爲によつて脳組織の崩壊を來したものであること、從つて被告人の行爲と被害者の死亡との間に因果關係を認めることができるのであつて、かゝる判斷は毫も經驗則に反するものではない。又被告人の行爲が被害者の脳梅毒による脳の高度の病的變化という特殊の事情さえなかつたならば致死の結果を生じなかつたであろうと認められる場合で被告人が行爲當時その特殊事情と相まつて致死の結果を生ぜしめたときはその行爲と結果との間に因果關係を認めることができるのである。 |